
気がつけば、伝票やレシートを紙のまま束ねて棚にしまっている──そんな状態になっていませんか?
電子帳簿保存法では「紙での保存」も認められていますが、紙のままでは思わぬ落とし穴があり、“証拠として通用しない”ケースも少なくありません。
“なんとなく大丈夫”という判断はとても自然なもので、現場でもよく見られる姿です。
しかし、“紙で保存している=安心”ではないという点には注意が必要です。
実際、紙のまま放置していたために証拠として認められなかったり、税務調査で不利な扱いを受けたりしたケースもあります。
私たちは印刷会社として、日々さまざまな紙伝票やレシートの扱いに関わってきました。
その現場経験から見えてきた「紙ならではの落とし穴」と「対策のポイント」を、この記事でわかりやすく整理しています。
「もしかして自分も当てはまるかも」と感じた方は、ぜひ続きを読み進めてみてください。
紙のままで“証拠”になると思っていませんか?電子帳簿保存法が突きつける意外な落とし穴
電子帳簿保存法と“紙での保存”が危険な理由|思い込みが招く落とし穴

結論から言えば、「紙で残しておけば大丈夫」という考え方は制度が変わった今では通用しません。
電子帳簿保存法のもとでは、「紙の書類があること」ではなく「書類が”証拠として機能する状態”で残っていること」が求められます。
そして紙は、その条件を満たせない”3つの落とし穴”を抱えています。
1.劣化・消失による「証拠不成立」
紙の最大の弱点は、時間と環境に弱いことです。
感熱紙のレシートは2〜3年で文字が薄れ、複写伝票も湿気や紫外線で判読できなくなることがあります。
つまり「残っている」だけでは不十分で、読めなければ“存在しない”と同じ扱いになるのです。
▼ たとえば…
経費計上の根拠としてレシートを提出しても、日付や金額が消えていたせいで経費が認められない可能性があるという指摘が報告されています。
2. 要件不備による「形式上の否認」
紙のままでも違法ではありませんが、保存法が求めているのは「誰と・いつ・どの取引をしたかが正確に追える状態」です。
束ねて保管しているだけでは、取引の紐づけが曖昧になったり、日付・発行元が確認できなかったりして、形式要件を満たさないと判断されるリスクがあります。
▼たとえば…
複数の伝票が混在し、どの書類がどの取引を指すのか判別できなかったことで、証拠としての効力が認められないケースが考えられます。
3.真正性が証明できないことによる「証拠能力の欠如」
電子帳簿保存法では、「改ざんされていないと証明できること」が重要な条件になります。
電子データであればタイムスタンプやアクセス履歴などで“変更されていない”ことを証明できますが、紙の場合ではそれができません。
結果として、「本当に当時のままか」が確認できず、証拠としての信頼性を失う可能性が高くなります。
▼たとえば…
請求書の内容が後から書き換えられた疑いが払拭できず、「証拠として信用できない」と判断されるケースが考えられます。
電子帳簿保存法とは?|紙で保存する場合に知っておくべき本当の意味

1.制度の本質と意図|目的は証拠としての状態を確保すること
「なぜ“紙のままでは危険”といえるのか、その背景を理解するには、そもそも『電子帳簿保存法』がどのような目的でつくられたのかを知っておく必要があります。
電子帳簿保存法は、取引記録を「後から証拠として使える状態で残すこと」を目的に作られた制度です。
背景には、これまで紙でやり取りしていた帳簿・請求書・領収書などが、近年はメールやクラウドを通じて電子データとしてやり取りされるケースが増えている**という現実があります。
こうした変化を受けて、国は「電子で受け取ったものは電子のまま保存してほしい」という方針を打ち出しました。
国税庁|電子帳簿保存法の概要(公式解説ページ)
つまり、“電子化そのもの”が目的ではなく、「証拠としての状態を確保すること」こそが法律の本質ということです。
2.「紙でもOK」の本当の意味|なぜ誤解が生まれるのか
この法律について特によくある誤解が、「紙のまま保存しても違法ではない」という部分です。
たしかに、紙で受け取った書類まで無理に電子化する義務はなく、紙で保管していても罰則はありません。
この点だけを聞くと、「今まで通りでも大丈夫」と思ってしまうのは自然なことです。
これは『紙のままでも“証拠として通用する状態”を維持できるなら問題ない』という考え方が根底にあるからです。
しかし、ここで重要なのは「紙か電子か」ではありません。
当に問われているのは、「誰と・いつ・どのような取引をしたか」が、あとから正しく証明できる状態になっているかどうかです。
この“条件付きのOK”という本質が見落とされ、「紙なら安心」という思い込みが生まれてしまうのです。
3.保存で求められる”3つの条件”
電子帳簿保存法は、「書類が残っているかどうか」だけでなく、「電子帳簿保存法の要件を満たす証拠」を求めます。
最低限、次の3つの条件を満たしていなければなりません:
- 改ざんされていないこと:「書類が当時のままである」と証明できること
- すぐに確認できること:「必要なときにすぐ内容を確認できる」こと
- 取引内容と結びついていること:「誰と・いつ・どんな取引だったか」が明確に追えること
これらの条件を満たせていないと、『書類が存在していても証拠として無効になる』という事態が起こり得ます。
▶引用(国税庁Q&A)
「電子的に受け取った請求書や領収書等については、データのまま保存する方法と、書面または COM に出力して保存する方法がある。…その際、「真実性を確保するため、次のいずれかの方法を満たす必要がある」 と規定されてる。」(国税庁|電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】より)
電子データであれば、タイムスタンプや履歴、検索機能などによって比較的容易にこれらを満たせます。
しかし紙の場合、日付が消える・書類が混ざる・改ざんを証明できないといったリスクが高く、「存在していても証拠にならない」という事態が起こり得ます。
電子データならタイムスタンプや履歴機能で比較的容易に証明できますが、紙の場合は「改ざんされていないこと」や「取引と結びついていること」を示すための手間が大きく、条件を満たすハードルが高くなります。
詳しくは、紙と電子のメリット・デメリットを整理したこちらの記事も参考になります。
→紙と電子の保存方法を徹底比較|それぞれのメリット・注意点まとめ
4.紙書類の保存対象と“長期保存”という現実
対象となるのは、帳簿・契約書・見積書・請求書・領収書・レシートなど、取引の証拠になるすべての書類です。
これらは原則7年(条件によっては10年)保存しなければならず、その間ずっと「証拠として通用する状態」を保つ必要があります。
たとえ書類が手元に残っていても、文字が薄れていたり、どの取引と結びついているのか不明だったりすれば、“証拠として機能しない”と判断される可能性があります。
だからこそ、「残しておけば安心」ではなく、「7年後も証拠として使えるように残す」ことが何より大切なのです。
では、紙で残す場合に“証拠として通用させる”にはどうすればいいのか?
ここからは、紙でも証拠として残すために“今日からできる3つの対策”を具体的に見ていきましょう。
▶関連記事
(基礎知識を先に抑えておきたい方へ)
→ 紙伝票を安全に保管するための基本ポイントまとめ
▶おすすめ動画「電子帳簿保存法のポイント|国税庁動画チャンネルより」
(精度の全体像をざっくり把握したい方へ)
電子帳簿保存法で紙伝票を証拠として残す3つの対策

ここからは、電子帳簿保存法のもとで紙を保存する際に必ず押さえておきたい3つの対策を解説します。紙の伝票やレシートを扱う現場では、このポイントを理解しているかどうかで「証拠として通用するか」が大きく変わります。
1.スキャン・PDF化で“読める証拠”を確保する
まず何よりも大切なのは、「読める状態で残すこと」です。
どれだけきれいに束ねて保管していても、日付や金額が薄れて判読できなければ「存在していない」のと同じ扱いになります。
とくに感熱紙のレシートや複写伝票は、熱・光・湿度などの影響で数年以内に文字が消えるリスクが高く、保存義務期間(原則7年~10年)を満たせないケースが少なくありません。
そこで重要になるのが、早期のスキャンやPDF化です。
印字が鮮明なうちに電子データとして残しておけば、文字が薄れても“当時の証拠”として提示できますし、検索・仕分け・提出対応も格段に効率化できます。
こうした対策を行う際は、次の3つのポイントを意識しておくと“証拠として通用するライン”をしっかり満たせます。
証拠として通用させるためのポイント
・受領後できるだけ早くスキャン・撮影し、取引ごとにフォルダを分けて保存する
・ファイル名に「日付・取引先・金額」などを含めて一意に管理する
・元の紙も捨てずに原本+データの二重管理をしておくと、信頼性がさらに高まる
たとえば、経費処理のレシートなら「2025-03-15_株式会社ABC_昼食代1320円.pdf」のような形式で保存しておくと、後から“どの取引の証拠か”を瞬時に確認でき、税務調査でも通用しやすくなります。
こうした“ひと手間”が、「紙でも証拠力を維持できるライン」を満たすかどうかを大きく左右します
2.保管環境を整えて“長期保存に耐える状態”をつくる
紙のまま証拠として残す場合、どこに・どう保管するかは軽視できません。
なぜなら、感熱紙や複写伝票は「湿度・温度・光」によって文字が薄れたり紙が劣化したりしやすく、保存期間(原則7〜10年)の途中で“読めない書類”になってしまうリスクがあるからです。
特に次のような環境は要注意です
- 窓際や蛍光灯の近くなど、直射日光や紫外線が当たる場所
- 湿気の多い倉庫・バックヤードなど、湿度が高くなりやすい空間
- エアコンの風や夏場の高温で、温度が急変する環境
こうした環境下では、紙が波打ったり文字が薄れたりして「証拠として使えない状態」になる可能性が高まります。
特に注意したいのが、レシートなどに多く使われている”感熱紙”です。
感熱紙は光や熱、湿度の影響を強く受けやすく、数年のうちに印字が薄れたり読めなくなるケースが少なくありません。
会計・税務の専門サイトでも、「感熱紙の印字が消えることで内容が確認できず、経費として認められない可能性がある」と注意喚起されています。
そのため、レシートや感熱紙の伝票を紙のまま保管する場合は、遮光・湿度管理・密閉保存の三点を徹底することが重要です。
特に日光の当たらない暗所に置き、湿度40〜60%前後を目安に除湿剤などで環境を整えると、劣化リスクを大きく減らせます。
保管環境を整える際は、次の3つのポイントを意識すると“証拠としての状態”を長期間キープしやすくなります。
証拠力を維持するための3つのポイント
・日光が当たらず、温度変化の少ない暗所・室内に保管する
・湿度40%~60%前後を目安に、湿気・結露対策を行う
・書類やバインダーや封筒で密閉・遮光し、外的要因から守る
さらに、年に1〜2回程度の状態点検を行い、「文字の薄れ」や「紙の変形」がないかを確認すると安心です。問題が見つかった場合は、スキャンして電子データ化するなど早めの対策をとりましょう。
保管環境の工夫だけでも劣化の多くは防げますが、複写伝票は「どんな条件で保管するか」によって数年後の状態がまったく変わってきます。
湿度・光・用紙の性質を踏まえた“具体的な劣化対策”については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
→ 複写伝票の保存期間は?劣化を防ぐコツを印刷会社が解説
3.劣化しにくい紙・印刷方式を選んで“証拠の寿命”を延ばす
最後に意識しておきたいのが、「そもそもの紙や印刷方式の選び方」です。
ここは少し専門的な話になりますが、この段階での判断が、7年後・10年後に“証拠として読めるかどうか”を大きく左右します。
保管環境でも触れたように、感熱紙は光・湿度・摩擦の影響を受けやすく、長期保存には向いていません。
特に紙の寿命を延ばすために重要なのは、「保管後に対策する」のではなく、「そもそも使う段階で劣化しにくい素材・印刷方式を選ぶ」という視点です。
感熱紙レシートや簡易な複写伝票は、そもそもの材質や印刷方法の性質上、保存義務期間を満たせない可能性が高く、素材選定の段階から注意が必要になります。
そのため、最初から“長期保存に耐えられる素材・印刷”を選んでおくことが、紙で保管する上での重要な対策になります。
選定時に意識したいポイント
・感熱紙は避ける:熱・光・湿度に弱く、印字が消えるリスクが高い
・高品質な上質紙やノーカーボン紙(複写伝票用のインクがしっかり定着する紙)を選ぶ
・オフセット印刷やレーザー印刷(インクを熱や圧力で強固に定着させる方式)など、定着性の高い印刷方式を検討する
実務でのポイント
・長期保存が前提の帳票類は、発注段階で「7年以上保存予定」であることを印刷会社に伝える
・可能であれば、試験的に印刷見本を数年保存して劣化具合を確認しておく
・すでに感熱紙レシートが大量にある場合は、スキャンによるデータ化+原本の適切な保管を組み合わせる
紙や印刷方式は一見すると些細な要素に見えますが、「時間が経っても読めるかどうか」こそが証拠力の根幹です。
日々の帳票発注や印刷方法の選定段階から意識しておくだけで、7年後・10年後の安心感は大きく変わります。
紙の種類や印刷方式は、証拠としての耐久性や劣化リスクにも大きく関わってきます。
「単式・複写・感熱ってどれがどんな用途向きなの?」「どんな特徴があって、どれを選ぶべき?」といった疑問は、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 伝票の種類と違いが一目でわかる|単式・複写・感熱など紙タイプ別にやさしく解説
電子帳簿保存法に関するよくある質問
ここまでで基本的な考え方と対策はおわかりいただけたと思いますが、実務の現場では「ここが気になる」という声もよく聞かれます。よくある質問を以下にまとめました。
電子帳簿保存法では紙での保存も認められていますが、要件を満たしていないと“証拠にならない”ことがあります。具体的には「読めない」「改ざんが疑われる」「取引と紐づかない」といった状態では証拠として認められない可能性があります。紙でも「証拠として通用する状態」を保つことが重要です。
電子帳簿保存法の保存要件を満たすためには、感熱紙は劣化に注意が必要です。
感熱紙は光や湿度に弱く、数年で文字が消えることがあります。劣化が始まる前にスキャンやPDF化してデータで保管するか、遮光・除湿など保存環境を整えることが大切です。紙だけで長期保存するのはリスクが高いため注意しましょう。
紙と電子を併用することは可能です。電子で受け取った書類は電子データのまま保存し、紙で受け取ったものは紙で保存するなど、形式を分けても問題ありません。ただし、いずれの場合も「証拠として通用する状態」を満たしていることが前提です。
単にスキャンして紙を破棄するだけでは、証拠として認められない場合があります。タイムスタンプや履歴管理など「改ざん防止の仕組み」が必要になるため、制度上の要件を確認してから廃棄しましょう。安全策として紙とデータの併用も有効です。
請求書や領収書などの証憑書類は、原則7年間(法人によっては10年間)保存する必要があります。この期間内に文字が消えたり取引内容が不明になったりすると証拠能力が失われるため、長期保存を前提とした環境・用紙選びが欠かせません。
現行制度では「電子で受け取った書類は電子のまま保存」が原則ですが、紙で受け取ったものを電子化する義務はありません。ただし、電子で受け取ったものを紙に出力して保存するだけでは違反となるため、受け取り方によって対応方法が異なります。
まとめ|「紙で残す」は“証拠になる状態”が前提です
電子帳簿保存法では紙の保存も可能ですが、紙には「劣化」「要件不足」といったリスクがあります。だからこそ、紙の伝票・レシートを安全に残すためには、紙ならではの保存対策を早めに講じることが重要です。
「紙で残しておけば安心」という考え方は、制度が大きく変わった今では通用しません。
電子帳簿保存法が本当に求めているのは、「7年後・10年後も証拠として使える状態で保管されているかどうか」です。
そのためには、
- 印字が薄れる前にスキャン・PDF化して読み取れる形に残す
- 湿度・光・温度などの保管環境を整える
- 用紙や印刷方式から“劣化しにくい選択”をする
といった基本対策を積み重ねることが欠かせません。
「今のままで本当に大丈夫かな?」と感じた方は、一度紙まわりの保存方法を見直すタイミングかもしれません。
今日からできる小さな対策が、紙の保存リスクを減らし、数年後の“安心”を大きく左右します。